学会

学会とは

研究活動で得られた研究成果は、開発・実用化されることで社会の役に立ちます。また、すぐには開発・実用化が難しい研究成果であっても、他の研究者が研究を進めるうえで参考にし、さらに関連する研究を広げていくことで、技術の発展に貢献できます。そのため研究成果が社会の役に立つには研究成果を発表する場が必要となり、大学の教員、国立研究所や企業の研究者、といった研究者たちが、技術分野ごとに研究成果の発表の場として運営している組織が学会です。

学会の主な役割は学術論文誌の発行と技術会議の開催です。学術論文誌には、研究者が研究成果を執筆した論文を投稿し、他の研究者らが審査(査読といいます)し、新規性や有効性の観点から出版する価値があると判定された論文だけが掲載されます。

技術会議は研究者が集まって研究成果を発表し、他の研究者と研究内容について意見を交換する会議です。世界中から研究者が集まる国際会議や、国内の研究者が主に参加する研究会や全国大会などがあります。国際会議の場合、査読を通ったもののみが発表できます。

情報ネットワークの分野で世界最大の学会は、米国に本部があるIEEEという学会で、世界中の多くの研究者たちがIEEEの出版する学術論文誌や,IEEEが主催する国際会議で研究成果を発表しています。また日本国内では電子情報通信学会という学会が最大で,数多くの研究会や全国大会を開催しています。

本研究室でも主にIEEEや電子情報通信学会で研究成果を発表しています。


学会発表のメリット

プレゼンテーション能力の向上

よいプレゼンテーションを行うには要点を明確に分かりやすく聴講者に伝えるスキルが必要です。本研究室では技術会議で研究発表を行う際は事前に何度も発表練習を行いますので、プレゼンテーションが苦手な人も得意な人も、プレゼンテーション能力が大きく向上します。技術系の多くの職種で求められるプレゼンテーション能力を、学会発表を行うことで効率的・効果的に向上させることができます。

自身の研究の整理

論文を書いたり発表スライドを作成するには、自分の研究について整理し研究の目的や効果を分かりやすくまとめる必要があります。そのため学会発表を行うことで、自分の研究のアピール点や問題点がクリアになり、次に取り組むべき課題が明確になります。

また論文を審査された研究者や、技術会議で聴講された研究者から、自分の研究の問題点や改善点を指摘してもらえますので、次に取り組むべき課題や研究の方向性を考える上でのヒントになります。

就職活動でのアピール力の向上

学会発表を行うには自分の研究の新規性と有効性について論文中で明確に示す必要があり、自分の研究について深く理解し考えることになます。また論文に研究成果をまとめるには、長期間にわたる継続的な研究への取り組みが求められ、論理的な思考力が養われます。

一方、研究開発職やSEなどの技術系の職種は、論理的な思考力や継続的に取り組む力が強く求められます。そのため企業の技術系職種の採用担当者は、多くの場合、学生の学会発表経験を高く評価します。技術系の職種での就職活動の際は、学会発表の経験を強くアピールすることができ、就職活動を有利に進められます。

また技術会議で参加者と意見交換をするこで、自分の名前を企業の研究者らに覚えてもらえるチャンスがあります。よい研究発表をすることで、将来、就職を希望する企業の研究者に名前を覚えてもらえれば、その企業に就職できるチャンスが広がる可能性があります。

奨学金の返済免除

大学院生のときに受給した日本学生支援機構の第一種奨学金は無利子ですが、卒業後に返済する必要があります。しかし成績優秀者に対しては返済が免除される制度があります。立命館大学 情報理工学部の場合、学会発表を数多く行った学生が返済免除対象者に選ばれやすい傾向がありますので、学会発表を数多く行うことで奨学金の返済免除が受けられる可能性が高くなります。

海外・国内の都市への旅行

この数年はコロナの影響で技術会議の多くがオンライン開催となっていましたが、今年になってからは、従来のように、現地での開催が多くなってきました。国際会議は世界の様々な都市で、また研究会や全国大会は国内の様々な都市で開催されます。学会発表を行った際は、研究発表を行うだけでなく、その前後の時間は開催地で観光を楽しむことができます。本研究室では技術会議への参加の旅費に使用可能な、政府や財団等の競争的資金を数多く獲得していますので、学生の皆さんは旅費を負担することなく、技術会議への参加が可能です。

大学院

大学院進学のメリット

大学院進学には以下のような様々なメリットがありますので、先進ネットワーク研究室では4年生に大学院への進学を勧めています

  • 卒業研究で研究に1サイクル取り組むことで、論理的な思考能力や自分の頭で考える力などがある程度は向上します。しかし大学院に進学して研究に取り組むことで、これらの能力はどんどん向上していきます。学部3年生秋学期からの1年半と大学院の2年とで合計で3年半、研究に取り組むことで、問題の所在を把握する能力、問題を抽象化してモデル化する能力、論理的な思考能力、資料にまとめる能力、他者に説明する能力など、多くの職種で必要とされる重要な能力を効率的・効果的に習得することができます。
  • 研究や学会発表の経験を十分に積むには1年半では短く、大学院に進学してさらに2年間は研究に取り組む必要があります。知名度の高い超一流・一流企業の多くは、技術系の新入社員に対し、研究に取り組んだ経験や学会発表の経験を高く評価しますので、大学院卒業者を技術系の社員として主に採用します。大学院に進学し、研究活動に取り組む過程で多様な能力が培われるので、より良い企業に就職できる可能性が広がります。
  • 大企業の研究所や国立の研究所、大学教員など、研究者の道に進みたい場合は、大学院博士前期課程を卒業して修士号を取得することは、ほぼ必須条件です。
  • 研究者にならない場合は、人生において研究に取り組める時期は学部の卒業研究と大学院生のときだけです。この間、技術系の仕事に必要な能力の習得に加え、国内外の学会発表を体験することができます。特に大学院生は技術会議の檜舞台である、世界中の研究者が集まり研究成果を発表する国際会議で発表できるチャンスが十分にあります。

研究活動のモチベーションを高く維持するには、研究に対する意欲の高い仲間が多くいる環境で研究に取り組むのが理想です。本研究室は研究や学会発表に対する意欲の高い学生が多く在籍していますので、一緒に切磋琢磨できる仲間に恵まれた環境で研究活動が行えます。教員は大学院進学を可能な限りサポートしますので、不明な点や不安な点がある場合は、いつでも遠慮なく相談してください。以下に、考えられる主な不安点と、実際はどうかについてまとめます。


よくある質問

経済面

Q1: 就職するのが2年間遅れるので、収入が減り損をしそう

A1: 大学院を卒業して就職すると、より条件のよい企業・職種に就ける可能性が上がります。内閣府経済社会総合研究所の調査(柿澤,他,"大学院卒の賃金プレミアム",ESRI Discussion Paper Series No. 310 (第11ページ目))によると、就職が2年遅れるにもかかわらず大学院卒の人の生涯賃金収入の平均は、学部卒の人の生涯賃金収入の平均よりも,男性は4,846万円,女性は4,334万円も多くなります

Q2: さらに2年間、大学院の授業料を払うのは経済的に厳しい

A2: 立命館の卒業生が立命館の大学院に進学する場合、入学金は免除されます。また大学院の各学年において、約半数(成績の上位45%)の学生は、年間で45万円(25%の学生)もしくは10万円(20%の学生)の奨学金が大学から給付されます(返済不要)。また日本学生支援機構の第一種奨学金(8.8万円/月)を希望すれば受給可能です。本奨学金は無利子ですが卒業後に返済する必要がありますが、優秀者に対する返済免除の制度があり、学会発表を数多く行うなど学業活動が優秀な学生は返済免除者に選ばれます。さらに学部生の授業補助(ティーチングアシスタント(TA))の制度があり、TAは1授業時間あたりのアルバイト料が3,000円と高く、学業とも両立しやすいため多くの大学院生が従事しています。これら様々な支援制度を活用することで授業料の負担を軽減することが可能です。

Q3: 貸与型の奨学金をもらって進学すると、卒業後にちゃんと返せるか心配である

A3: 貸与型の奨学金としては日本学生支援機構が一般的ですが、就職後の月の返済額は1万円程度です。また無利子ですので利息が増える心配はなく、さらに返還猶予や返還額の減額の制度もありますので、大学院卒業後に就職すれば返済で生活が困窮する可能性は低いと言えます。さらに上に書いたように、優秀者には返済が免除される制度もあります。

就職面

Q4: 大学院に進学すると2歳、年齢が増えるので就職で不利になりそう

A4: 大学院に進学して2年間、真摯に研究に取り組めば、学部卒で就職して2年間を過ごすことに比べて、問題を発見する能力、自分の頭で論理的に思考する能力、問題を分析する能力など、多くの技術職に必要な基礎力が大きく向上します。そのため優良企業・大企業ほど、むしろ大学院を卒業した学生を技術職に優先的に採用しますので、大学院に進学すると技術職の就職で有利になります。

Q5: 進学と就職で迷っているが、大学院の入試勉強と就職活動との両立が難しそう

A5: 3年生終了時点のGPAが3.0以上であれば、学内進学入試を受験でき面接のみで進学が可能です。また一般入試を受ける場合も、過去2年の入試問題が公開されていますので、過去の入試問題をベースに勉強すれば効率的に筆記試験の勉強が可能ですので、就職活動との両立も可能です。

心理面

Q6: 大学院に進学することは特殊なことに感じる

A6: 立命館の理系学部では半数近くの学生が大学院に進学しています。将来、研究職に就職を希望する人だけでなく、開発職やSEといった技術職を希望する人にとっても、能力を高め優良企業に好条件で就職するために大学院に進学することは有効です。今後、科学技術が細分化・高度化するにつれて、理系の学生にとって技術職に普遍的に必要となる能力を向上させるために、大学院進学はますます普通のことになっていくと思います。

キャッシュ配信

コンテンツ配信

一般に「コンテンツ」とは「中身」という意味ですが、インターネットの世界でコンテンツというと、Webページを閲覧したときにブラウザ上に表示される文字や画像、YouTubeなどの動画など、インターネット上で配信されるデジタルデータのことを意味します。

特に動画コンテンツは文字や画像と比較して遥かにサイズが大きく、さらにNetflixなどのビデオ配信が普及した結果、インターネット上で配信される動画が高精細化し、ますます大容量化しています。また無線ネットワークの大容量化によって、スマホで動画を観ることが一般化し、動画の視聴頻度が急増しています。

その結果、ネットワーク上を流れるデータ量が爆発的に増加し続けています。安定した高品質なコンテンツ配信を提供し続けるためには、ネットワーク事業者はネットワーク設備の増設を続ける必要がありますが、ネットワークの構築や運用に要するコストの増加が問題となっています。


キャッシュ配信

一方でコンテンツはデジタルデータなので、複製であっても価値がオリジナルと全く変わらない特徴があります。そこでコンテンツのコピーを保存可能な大容量のハードディスクやメモリを備えたキャッシュサーバからコンテンツを配信する「キャッシュ配信」が、ネットワークを流れるデータ量を削減する技術として有効です。

すなわち予めネットワークの様々な場所にキャッシュサーバを設置しておき、キャッシュサーバにコンテンツのコピーを保存し、ユーザがコンテンツを要求した際には要求ユーザの近くに存在するキャッシュサーバから要求コンテンツを配信します。

例えば下図のように、日本国内から地球の裏側の南米にコンテンツのオリジナルを保有する配信サーバが存在するときに、配信サーバではなく、シンガポールに設置されたキャッシュサーバからコンテンツを配信することで、コンテンツの配信経路長を短縮できます。

このようにキャッシュ配信を行うことで、コンテンツ配信時の経路長(経由するルータやリンクの数)を削減しネットワークの各リンクを流れるトラヒックの大幅な低減が可能であり、必要ネットワークの設備量を抑えネットワークの設備・運営コストの低減が期待できます。

またコンテンツ配信時の遅延時間の減少と、スループットの向上が可能であり、ユーザの配信品質の向上が期待できます。

キャッシュ配信の例

キャッシュはネットワークの要となる技術であり、ネットワークの様々な場所で活用されています。以下にネットワークにおける代表的なキャッシュの活用例を示します。

  • Content Delivery Network (CDN): Akamai等の専業CDN事業者が多数のネットワークにキャッシュサーバを設置して構築したキャッシュ配信プラットフォームがCDNです。コンテンツ事業者はCDN事業者と契約することで膨大な数のキャッシュサーバからのコンテンツ配信が可能となります。メジャーなWebサイトの多くはCDNを利用しており、2020年の時点でコンテンツ配信の約50%はCDNを用いて配信されています。
  • Mobile Edge Computing (MEC): スマホによる動画視聴数の増加により、無線ネットワークの基地局をつなぐネットワーク(バックホール)のデータ量が急増し、その設備コストの増加が問題になっています。そこで5Gや6Gの無線ネットワークでは、無線基地局にキャッシュストレージを設置し、そこで動画コンテンツをキャッシュしてスマホに配信する技術が導入されています。
  • Device-to-Device (D2D) Caching: 自動運転に必要な情報や、運転をサポートする様々な情報を自動車にリアルタイムで送るために、常時、自動車をネットワークに接続するConnected carの導入が進んでいます。さらに近隣を走行する自動車の間でデータを共有する車車間通信が検討されています。車車間通信において自動車にキャッシュを設置し、自動車間でキャッシュ配信を行うことが検討されています。
  • 情報指向ネットワーク(ICN: information-centric networking): コンテンツを効率的に転送する次世代のネットワークとして期待されているのがICNです。ICNではコンテンツの名称を直接、アドレスに用いて要求パケットをネットワーク上で転送し、さらにルータでコンテンツをキャッシュすることでコンテンツの配信元を発見的に決定します。ICNにより名前解決のオーバヘッド回避や、曖昧な名称でのコンテンツ要求の実現が期待されています。