このページでは,本研究室の運営方法や卒業研究の進め方などについて,1〜3年生向けに,まとめています.
先進ネットワーク研究室の特徴
卒業論文(卒論)研究や修士論文(修論)研究では、ネットワークを数学で取り扱えるようモデル化し、ネットワークの制御・設計アルゴリズムを考案します。そして計算機シミュレーションや、最適化理論・学習理論・ゲーム理論などによる理論解析、実機実験のいずれかの方法によって、考案したネットワーク制御・設計技術の有効性を評価します。
上山は以下の2つを目標に先進ネットワーク研究室を運営しています。
- 学生に卒業後に役立つ能力を教授すること
- 数多くの研究成果を社会に還元すること
大学は主に学生が払う授業料と国から交付される税金で運営されています。そのため大学の研究室は、学生に十分な教育効果を提供することと、研究成果を学会で積極的に発表して技術の発展に貢献することが求められます。そしてこれら2つを同時に実現する有効な方法が、学生が多数の学会発表が行える研究指導だと考えています。
そのため学生にはできるだけ多くの学会発表を行うよう努めてもらっています。これまでに11人の指導学生(福岡大学の学生を含む)が大学院修士課程を卒業しましたが、各学生は学部時代と合わせて平均で査読付国際会議に1.0回の採録を果たし、また国内の学会発表を4.8回行っています。
研究室に配属された3年生は、まだ研究の経験が無いため、学生自身で学会発表に繋がるような研究テーマを見つけることは容易ではありません。そのため上山が研究テーマの候補を用意し、学生の希望を考慮して割り当てます。未解決でかつ解く価値のある研究課題を卒論の研究テーマに設定しますので、研究成果が出やすく早期に学会で研究成果を発表することができます。学会発表は教育効果が高く、就職活動や奨学金の返済免除などの様々な観点でメリットがあります。学会発表の様々なメリットについては、こちらにまとめています。また学会発表を行った学生の参加レポートをこちらで閲覧できます。
4年生の間に1回以上は、学会発表を行うことを目標に卒業研究に取り組んでもらいますので、研究に意欲のある学生を歓迎します。また大学院進学には様々なメリット(こちらにまとめています)がありますので大学院への進学を勧めています。これまでのところ、本研究室の4年生のうち約70%の学生が本研究室の大学院に進学しています。大学院の学生は、海外の学会(国際会議)で1回以上、研究成果を発表することを目標に研究に取り組んでもらいます。国内外の様々な学会に参加する際は、研究室の予算で旅費や宿泊費を負担します。
大学院生は学会発表を多数行うことで、成績優秀者奨学金に選ばれやすくなります。本研究室は、卒論テーマを上山が用意し、個別に時間をかけて進捗ゼミを行いますので、4年生のほぼ全員が4年生のうちに国内の学会で研究発表を行います。また大学院生のほぼ全員が、大学院生のうちに査読付国際会議に投稿しています。学会発表を積極的に行う結果、成績の上位25%の学生が選定される大学院成績優秀者奨学金を、上山研の多くの大学院生が獲得しています。例えば2024年度のM2を対象としたものは、SNコースで9名が受賞しましたが、そのうちの約半数の4名が上山研の学生でした。
本研究室を卒業した学生は、NTT西日本などの大手通信キャリア、TISなどの大手システムインテグレータ、富士通などの大手総合ITベンダなどに就職しています。卒業研究は、これまでに皆さんが受けてきた講義や実験・演習科目とは異なり、未解決の答えが分からない課題に取り組みます。そのためスムーズに進まないことも多く継続的な努力が求められますが、研究が進んだときには大きな達成感・充実感がえられます。皆さんには大学生活の集大成として、ぜひ卒業研究に意欲的に取り組み、卒業研究を楽しんでほしいと思います。
研究テーマ
ネットワークセキュリティ技術やネットワークの設計/制御技術など、ネットワークインフラ技術の全般を主な研究対象にしています。これまでに本研究室を卒業した学生の修論/卒論は、ここで確認できます。
ネットワークセキュリティ
社会インフラとしての役割を担うインターネット上で、サービス不能攻撃やデータの改ざん、データの窃取など、情報セキュリティに関する脅威が増しています。
そこで本研究室では、利用者が安心・安全・快適にネットワークサービスを受けられるネットワークセキュリティ技術の研究に取り組んでいます。主なテーマは、
- キャッシュサーバの性能を低下させる攻撃の検知・防御技術『①』
- CDNのキャッシュサーバをターゲットとした攻撃の影響分析 『①』
- CDNのキャッシュサーバを騙ったDDoS攻撃を検知する技術『①』
- ネットワーク上の特定エリアのサーバを機能不全とする攻撃を検知する技術『①』『②』
- 有償コンテンツの不当配信を防ぐアクセス制御技術『①』『②』『③』
- ブロックチェーンを用いた耐改ざん性の高いデータ管理技術『①』
- キャッシュポリューション攻撃の防御のための分散台帳IOTAを用いたICNのコンテンツ名管理技術『①』
- IOTAを用いたIoTのMicropayment方式『①』
- 複数ブロックチェーン間の情報交換技術
などです。人々が快適・安心にネットワークを利用できる環境を維持する重要性の高いテーマです。
ネットワークキャッシュ
普段、スマホやパソコンでウェブページを見たり、YouTubeなどで動画を視聴することが多いと思います。しかし、なかなかウェブページが表示されなかったり、動画の再生が始まるまで時間がかかったり、画面が動かなくなったりするとストレスを感じます。
そこで本研究室では、インターネットで快適にウェブ閲覧や動画視聴ができるためのネットワークキャッシュに関する研究を行っています。主なテーマは、
- CDNの配信サーバを適切に選択する技術『①』
- 低コストのサーバを多数用いて高信頼なCDNを構築する技術『①』
- ウェブページを高速に表示する技術『①』
- キャッシュの状態を考慮したコンテンツ推薦技術『①』
- 深層学習(AI)を用いてIoTデータの将来の需要を予測しキャッシュを制御する技術『①』
- 次世代の情報ネットワークである情報指向ネットワークを大規模に実現する技術
『①』『②』『③』『④』『⑤』『⑥』 - 情報指向ネットワークを部分的に導入する技術『①』『②』
- 情報指向ネットワークの普及を促進するための調整金システム『①』
- SNSでデータを高速に取得して快適にSNSを使用できる技術『①』『②』
- AS間トラヒックを低減する動的ミラー配置技術『①』
などです。身近なネットワークサービスを快適にする技術のテーマです。
低軌道衛星ネットワーク
近年、高度500km~2,000km上空を周回する低軌道衛星を中継ノードとして用いてネットワークを提供する低軌道(LEO)衛星ネットワークが注目されています。LEO衛星は時速27,000kmと高速で移動することから、特に大容量コンテンツを安定・高品質・低コストで配信するためには、配信に用いるLEO衛星の選択や配信経路の制御技術が重要です。
そこで本研究室では2024年度より、LEO衛星ネットワークを効率的・高品質に運用するための研究に取り組んでいます。主なテーマは、
- LEO衛星に搭載されたキャッシュ上にコンテンツを最適に配置する技術
- LEO衛星キャッシュの局所的なキャッシュ法
- LEO衛星キャッシュの配信キャッシュサーバ選択法
などです。今後の普及が期待される新しいネットワークを効率的・低コストに運用し普及を促進するテーマです。
量子ネットワーク
量子ビットを用いて、全く新しい概念で演算を行う量子コンピュータが、劇的に演算速度を向上させる技術として注目されています。そして複数の量子コンピュータ間で量子ビットを転送する量子ネットワークが、大規模な量子演算を行う技術として重要性が増しています。
そこで本研究室では2024年度より、量子ビットの転送に用いられる量子テレポーテーションに不可欠な量子もつれペア(EPRペア)を効果的・効率的に用いるための研究に取り組んでいます。主なテーマは、
- 量子メモリを最適に配置する技術
- EPRペアを動的に配置する技術
- 量子テレポーテーションの経路を適切に選択する技術
などです。従来のネットワークとは異なる量子ビットを転送する全く新しいネットワークを実現するテーマです。
IoT / Mobile crowd sensing (MCS)
従来のインターネットはコンテンツ等のデジタルデータをスマホやパソコン等の計算機間で伝送する目的で主に使用されてきました。しかし近年、街中や郊外の様々な場所に設置されたセンサーデバイスやカメラ等から様々なデータを収集し、実世界の様々な活動の支援やサービスに活用するIoTが注目されています。また人々が多くの時間、携帯するスマートフォンをセンサーデバイスとして活用するMCSが、低コストで広範囲の環境データを収集するシステムとして有効です。
そこで本研究室では、IoTデータを効率的・高信頼に送信するための新しいネットワークの仕組みやIoTシステムに関して研究を行っています。主なテーマは、
- 害鳥獣をセンサーを用いて検知する技術『①』『②』
- 災害時にドローンを用いて被災者の救助活動をサポートする技術『①』『②』
- 大規模災害発生時に、避難者間で情報を共有して迅速に避難できる技術『①』『②』『③』
- スマホから環境データを収集する際に不正なデータを排除する技術『①』『②』
- 街の将来の状態や状況を推定するため、街の住人からスマホで環境データを測定・提供してもらうためのビジネスの市場予測技術『①』
などです。あらゆるモノをネットワークで繋げるIoTの活用を促進するテーマです。
卒業研究の進め方
情報ネットワークは規模が大きく、実際にネットワークを構築して実験を行うことが困難です。そのためネットワーク制御技術の効果を評価する際には計算機シミュレーションが広く用いられています。計算機シミュレーションとは、対象となるシステムの挙動をモデル化し、模擬するプログラムを作成して実行することで、計算機上で対象となるシステムの挙動を再現する分析方法です。
卒業研究でも、計算機シミュレーションのためのプログラムをC言語やPythonで書いて数値評価を行います。そのためプログラミングの能力を高めることができます。その準備として3年生には、まずC言語を用いて計算機シミュレータを作成する演習を行います。段階的に様々な演習課題に取り組むことで、計算機シミュレーションの仕組みを基礎から易しく学びます。
例外もありますが、卒論研究は以下の手順で進めます。
- 研究テーマの背景や課題を理解するため、教員が指定した関連研究の論文(和文と英文あり)を読んで内容を理解
- 研究課題を解決するための方法を、教員とディスカッションしながら一緒に検討
- 提案方式の有効性を示すための性能評価モデル・評価方法を教員と一緒に検討
- 計算機シミュレータや数値解析のプログラムをC言語やPythonでコーディング・デバッキング
- 作成したプログラムを実行してデータを取得し、グラフを作成して結果を分析
- 学会発表の原稿を執筆し、発表スライドを作成し、学会で発表
- 卒論の報告書・発表スライドを作成し、卒論報告会で発表
大学院の修士論文の研究も基本は卒論研究と手順は同じですが、学生がより主体的に、課題調査、解決アプローチや詳細な解決法の検討、数値評価の設計も含めて行います。
上記の全ての手順において、各学生に対し週に1度の頻度で上山が個別に研究打合せを行い、研究の進捗の確認と具体的な取組の方法を指導します。プログラミングや学会発表の原稿・発表スライドの作成は、上山や先輩がサポートします。
ゼミ
本研究室では、以下の研究室ゼミを開催しています。
- 個別進捗ゼミ
- 学生進捗ゼミ
- 一般ゼミ (輪講、勉強会・発表練習会、1対1プレゼン会など多様な目的で実施)
- シミュレータ作成演習(秋学期のみ開催)
各々のゼミの内容は、以下の通りです。
- 個別進捗ゼミ: 学年別の10人程度のグループごとに開催しますが、上山は各学生と個別に15分~30分程度の時間をかけて打合せをしますので、全体で2コマ程度と長時間になります。そのため自身の打合せの時間以外は自席に戻ってもらって結構です。そのため1対1で個別に打合せを行う形態となります。各学生に、自分が取り組んでいる研究の進捗を報告してもらい、上山が疑問点について回答したり、次に行うべきことを指示します。【1回(2コマ)/週の頻度で開催】
- 学生進捗ゼミ: 研究領域別に10人程度のグループで開催しますが、上山は参加しません。同じ研究領域のメンバー間での互いの研究内容や進捗状況の共有が目的です。学生だけで行うため、学生間で活発に意見が出ます。他学生からのフィードバック、他学生が取り組んでいる研究の知見が得られる、質問をする力が養われるなど、様々なメリットがあります。【1回(2コマ)/隔週の頻度で開催】
- シミュレータ作成演習: 3年生を対象に秋学期に実施し、C言語やPythonを用いたシミュレータの作成方法を勉強します。研究室の先輩が交代で、チューターとして参加します。【1回(2コマ)/週の頻度で秋学期のみ開催】
- 輪講: 研究テーマに関連する論文を読んで、要点をまとめて発表してもらいます。研究分野の知識を深めたり、要点をつかんでまとめる訓練を目的としています。一般ゼミで実施します。【1回(2コマ)/週の頻度で開催】
- 勉強会・発表練習会: 論文の読み方、論文の書き方、効果的なプレゼンテーションの方法、学会発表練習など、研究を進める上で必要な技術を勉強します。【非定期に一般ゼミで開催】
- 1対1プレゼン会: 学生を2人づつペアにして、一方が他方に自分の研究につて3分で説明し、聞いている方が2分で質問をします。そして役割を入れ替えて行い、ペアをずらして全員がペアになるまで反復します。他者に自分の研究をわかりやすく説明する力や、質問する力がつきます。また、研究室の他のメンバの研究を深く知ることができます。【非定期に一般ゼミで開催】
まとめると4年生や大学院生は、1週間あたり平均すると2回 (3.5~4コマ)のゼミ(学生進捗ゼミ & 一般ゼミ)と、上山との個別進捗ゼミ(15~30分程度)への参加が求められます。
卒論では多くの場合、計算機シミュレータや数値演算プログラムを作成しますので、その作成法を学ぶために3年生は研究室に配属後、最初にシミュレータ作成演習に取り組んでもらいます。3年生は授業が多いため、シミュレータ作成演習に取り組んでいる間は一般ゼミへの参加は求めません。しかし研究室の先輩の研究内容を知り、自身の卒論テーマの分野を決める参考にもなるため、学生進捗ゼミには参加してもらいます。またシミュレータ作成演習が終了した3年生には、一般ゼミに参加してもらいます。そのため3年生は以下のどちらかのパタンとなり、やはり週に平均3コマのゼミに参加することになります。
- パタン1: 学生進捗ゼミ(1コマ) + シミュレータ作成演習(2コマ)
- パタン2: 学生進捗ゼミ(1コマ) + 一般ゼミ(2コマ)
なお希望する人には、シミュレータ作成演習に参加中も、一般ゼミにも参加してもらって結構です。
卒業生の主な就職先
以下に示すような、大手通信キャリア、大手システムインテグレータ、大手ITベンダなど、ITの分野の多様な業界に就職しています。
- NTT西日本
- ドコモCS九州
- 富士通
- TIS
- 大日本印刷
- ソニーデジタルネットワークアプリケーションズ
- ビックカメラ