キャッシュ配信

コンテンツ配信

一般に「コンテンツ」とは「中身」という意味ですが、インターネットの世界でコンテンツというと、Webページを閲覧したときにブラウザ上に表示される文字や画像、YouTubeなどの動画など、インターネット上で配信されるデジタルデータのことを意味します。

特に動画コンテンツは文字や画像と比較して遥かにサイズが大きく、さらにNetflixなどのビデオ配信が普及した結果、インターネット上で配信される動画が高精細化し、ますます大容量化しています。また無線ネットワークの大容量化によって、スマホで動画を観ることが一般化し、動画の視聴頻度が急増しています。

その結果、ネットワーク上を流れるデータ量が爆発的に増加し続けています。安定した高品質なコンテンツ配信を提供し続けるためには、ネットワーク事業者はネットワーク設備の増設を続ける必要がありますが、ネットワークの構築や運用に要するコストの増加が問題となっています。


キャッシュ配信

一方でコンテンツはデジタルデータなので、複製であっても価値がオリジナルと全く変わらない特徴があります。そこでコンテンツのコピーを保存可能な大容量のハードディスクやメモリを備えたキャッシュサーバからコンテンツを配信する「キャッシュ配信」が、ネットワークを流れるデータ量を削減する技術として有効です。

すなわち予めネットワークの様々な場所にキャッシュサーバを設置しておき、キャッシュサーバにコンテンツのコピーを保存し、ユーザがコンテンツを要求した際には要求ユーザの近くに存在するキャッシュサーバから要求コンテンツを配信します。

例えば下図のように、日本国内から地球の裏側の南米にコンテンツのオリジナルを保有する配信サーバが存在するときに、配信サーバではなく、シンガポールに設置されたキャッシュサーバからコンテンツを配信することで、コンテンツの配信経路長を短縮できます。

このようにキャッシュ配信を行うことで、コンテンツ配信時の経路長(経由するルータやリンクの数)を削減しネットワークの各リンクを流れるトラヒックの大幅な低減が可能であり、必要ネットワークの設備量を抑えネットワークの設備・運営コストの低減が期待できます。

またコンテンツ配信時の遅延時間の減少と、スループットの向上が可能であり、ユーザの配信品質の向上が期待できます。

キャッシュ配信の例

キャッシュはネットワークの要となる技術であり、ネットワークの様々な場所で活用されています。以下にネットワークにおける代表的なキャッシュの活用例を示します。

  • Content Delivery Network (CDN): Akamai等の専業CDN事業者が多数のネットワークにキャッシュサーバを設置して構築したキャッシュ配信プラットフォームがCDNです。コンテンツ事業者はCDN事業者と契約することで膨大な数のキャッシュサーバからのコンテンツ配信が可能となります。メジャーなWebサイトの多くはCDNを利用しており、2020年の時点でコンテンツ配信の約50%はCDNを用いて配信されています。
  • Mobile Edge Computing (MEC): スマホによる動画視聴数の増加により、無線ネットワークの基地局をつなぐネットワーク(バックホール)のデータ量が急増し、その設備コストの増加が問題になっています。そこで5Gや6Gの無線ネットワークでは、無線基地局にキャッシュストレージを設置し、そこで動画コンテンツをキャッシュしてスマホに配信する技術が導入されています。
  • Device-to-Device (D2D) Caching: 自動運転に必要な情報や、運転をサポートする様々な情報を自動車にリアルタイムで送るために、常時、自動車をネットワークに接続するConnected carの導入が進んでいます。さらに近隣を走行する自動車の間でデータを共有する車車間通信が検討されています。車車間通信において自動車にキャッシュを設置し、自動車間でキャッシュ配信を行うことが検討されています。
  • 情報指向ネットワーク(ICN: information-centric networking): コンテンツを効率的に転送する次世代のネットワークとして期待されているのがICNです。ICNではコンテンツの名称を直接、アドレスに用いて要求パケットをネットワーク上で転送し、さらにルータでコンテンツをキャッシュすることでコンテンツの配信元を発見的に決定します。ICNにより名前解決のオーバヘッド回避や、曖昧な名称でのコンテンツ要求の実現が期待されています。