
近年、これまでのコンピュータとは全く異なる発想で情報を扱う量子コンピュータが注目されています。電子や光子といった量子は、多数の状態を確率的に同時に有する性質がありますが、量子ネットワークは量子ビットを用いて、多数の状態が重なり合った量子の状態を用いて多数の解のパタンを同時に解くことで、組み合わせ最適化問題など、従来のコンピュータでは膨大な時間を要した問題を一瞬で解くことができます。
しかし量子演算装置は大規模化が困難なことから、遠隔地に存在する多数の量子演算装置をつなぎ、全体として大きな量子演算装置を実現することが有効です。これら遠隔にある複数の量子演算装置をつなぎ、量子の重ね合わせの状態を維持したまま量子ビットを伝搬するのが量子ネットワークです。量子ネットワークは量子の有する「もつれ」現象を活用して、量子を伝送しますが、そのために用いられるのが量子もつれの状態にある量子のペア(EPR)ペアです。EPRペアの伝送には様々な制約があることから、量子ネットワークを実現するには解決すべき様々な問題があります。
そこで以下のテーマなど、EPRペアを用いて効率的・低コストに量子通信を行うための制御技術の研究に取り組んでいます。
量子メモリの最適配置
EPRペアは量子ビットの状態に応じた品質(忠実度)を有しており、量子ビットの転送要求に対して所望の忠実度を満たすEPRペアが得られるまで、EPRペアの生成を反復する必要があり、その遅延時間が問題となります。しかしEPRペアを事前に生成し、量子メモリと呼ばれるEPRペアを保存できるデバイスに保存しておくことで、EPRパスの生成に要する遅延を短縮できます。そこで平均EPRパス構築遅延が最小となるよう、量子メモリを最適に配置する技術の研究に取り組んでいます。
量子ビットの転送経路の選択法
複数のノードとリンクから構成される量子ネットワーク上で、量子ビットを転送する経路を適切に設定する必要があります。そこで動的に変化する量子ビット転送の需要に対して、複数の経路候補の中から、強化学習を用いて適切に選択する技術の研究に取り組んでいます。
EPR資源のオークションを用いた割当
EPR資源を提供する複数の事業者と、複数のユーザが存在するときに、EPR事業者とユーザとをダブルオークションを用いてマッチングすることで、全体のEPRパス構築遅延時間が低減するようEPR資源を適切にユーザに割り当てる技術の研究に取り組んでいます。