2026年6月CCS研究会で「現実的な量子特性下における量子ネットワーク経路選択の性能特性」というタイトルでI-siteなんばで発表してきました(Kim Minkyu)

始めに

先進ネットワーク研究室M2のKim Minkyuです.2026年6月11日(木)~12日(金)にI-siteなんばで開催されたCCS研究会で研究成果を発表してきましたのでその内容を報告します.

研究概要

量子通信を実現するためには,送信者と受信者の間でエンタングルメントを分配・確立する必要があり,マルチホップ量子ネットワークでは中継ノードを経由した遠隔エンタングルメント接続の確立が求められる.この問題はエンタングルメントルーティングとして知られているが,Bell pair生成の確率的性質や量子状態のデコヒーレンスにより,古典ネットワークとは異なる動的な課題が存在する.既存研究の多くは,量子特性に対して理想的な仮定を置くか,あるいは現実的な特性を十分に考慮しておらず,時間依存的なメモリ劣化が経路選択に与える影響は十分に検討されていない.


本研究では,先行研究で構築したシミュレーション基盤を活用し,現実的な量子環境下での評価を行った.この基盤上で,最短ホップ経路を選択するDijkstra,MAB(UCB1・Thompson Sampling)による適応的経路選択,およびRound-Robin・Randomの計5手法を,デコヒーレンスの有無の両条件で比較し,経路長の時系列分析もあわせて行った.量子ルーティングでは最短経路が一般的に有利とされるが,本研究ではこの前提が現実的な量子環境下でも成り立つかを検証することを意図した.


20ノードのWaxmanトポロジでの評価の結果,デコヒーレンスがない条件では,適応的経路選択が3ホップを超える経路を選びながらも最短経路のDijkstraを上回り,Bell pair利用可能性を考慮した経路候補生成の有効性が確認された.一方,デコヒーレンス下では,End-to-End成功率が約3倍低下するとともに,手法間の性能差が約8ポイントから約2ポイントへ圧縮され,適応的経路選択の優位性が大きく縮小した.Dijkstraもこの条件では最良ではなく,最短経路が常に有利とは限らないことが示された.これらの結果は,現実的な量子環境下では経路選択単独の最適化に限界があることを示しており,今後は経路選択よりもスワッピング・蒸留操作のスケジューリング最適化へと研究の焦点を移す必要があることを確認した.

詳細な内容については以下のスライドをご参照ください.

感想

今回の発表でまず気を配ったのは,どう伝えるかという点だった.聴衆の多くは量子ネットワークや量子コンピューティングを専門とされておらず,馴染みのない分野に理解の難しい量子の概念が重なるテーマを,どう伝えれば届くのか悩んだ.そこで,専門用語を本来の意味から大きく外さない範囲で,できるだけ直感的な比喩に置き換えて話すことに力を入れた.そのおかけで,質疑では「デコヒーレンスとは何か」「今後の課題は何か」といった概念そのものを問う質問をいただき,一つひとつ丁寧に答えることができた.専門外の先生方からこうした質問が出たこと自体,説明がある程度と伝わったことだと感じられ,よかった.馴染みの薄いテーマでも,工夫次第で多様な聴衆に届けられるのだと実感できた発表だった.